2003.11.07
♪ああそは彼の人か〜椿姫のアリア♪
去年の声楽の発表会に歌ったのは、『リゴレット』のジルダのアリア『カーロノーメ』だった。
遊び人である侯爵に騙されているとも知らず、貧しい学生だと思い込んで彼への思いを切々と歌うジルダのアリア。
最初、曲をもらった時は、純粋さ、可憐さが表現できるだろうかと、かなり悩んだ。
歌詞を覚えて、声を出すのに精いっぱいで、歌の表現までは追いつかなかったのがほんとのところだった気がする。
お芝居って、自分ではない者になりきるわけだけど、それにしてもちょっと無理があるかしら…なんて(^^ゞ
そんなこと言っていられないのだけどね。

さて、今年は。
『椿姫』のアリア『ああそは彼の人か〜花から花へ』を歌うことになった。
ちょっと前、バイエルンだったかウィンナーのCMで、佐藤しのぶさんが歌ってたことがあるのね。
華やかなソプラノが際立つきれいな曲。
椿姫ヴィオレッタは、言ってみれば高級な夜の社交界の華。
若いアルフレートの求愛に戸惑いながら、なぜか心惹かれ、でも自分の立場(侯爵に囲われている)も身分もちゃんとわかっていて、このまま華やかに生きて行こうと決意するというアリア。
この後二人は愛し合い、一緒に暮らすのだけど、やはり引き裂かれ、悲劇的な最後となる。
妖艶、気品、大人の女性としての誇り…。
私の中のヴィオレッタのイメージは、こんな感じだった。
イタリア語をちゃんと勉強したことがなく、単語が多少わかる程度だけど、これじゃ歌えないよね。
先生に『歌詞の意味を考えてわかって歌いなさい』と言われ、図書館や楽器店でCDを探し、いろいろ聴いてみた。
何となくなのだけど、彼女の気持ちを考えながら、歌うようになり、やっと歌詞も口になじんできた。
クラシック出身の癖に不勉強で、なかなかプロの演奏を聴く機会を作らないのだけど、聴いてみて本当によかった。
同じ歌が、人によって本当にさまざまに表現される。
私が何とか音にしている高いところを、軽々と歌い上げているプロの演奏(もちろんそれだからプロなんだろうけど)にはもう、恐れ入るしかないという感じで。
でも私なりに、少しずつ表情をつけて、歌えるようになってきた。

今年はスケジュールがとても詰まっていたのね。
10月後半に、PTAのコーラスの舞台と市民ミュージカルの合唱祭の舞台が同じ日にあり、次の週が声楽の発表会。
普段ならのども声も丈夫で、あまり気にしたことがなかったのだけど、体調が悪かった。
何とかコーラスのほうはこなしたのだけど、問題は一番大変な声楽の発表会。
風邪が長引いてしまい、咳が出たり鼻が出たりで、普段は楽に歌えるようなところまでかすれて来だして…。
疲れもあったのか、ほんとに舞台に立てるんだろうかと不安でたまらないという状態になってしまった。
めずらしくネットも休み、早寝を心がけたんだけど、全く改善しなくてね。
前日の最後の伴奏合わせの日には、先生に多大なご心配をかける状態になってしまった。
『お願いだからもう歌わないで。声出さないで』なんて、今まで言われたことなかった。
前日も当日の朝も、全く歌えない状態で、あとは本番一回にかけようということになった。
ただでさえ、歌詞が抜けたらどうしようと不安で仕方ないのに、これじゃまともに歌えるわけがない。
前半がしっとりと聞かせる部分で、途中から華やかに盛り上がる。
本当なら10分はかかるんじゃないかという大曲だけど、後半を少しカットして歌うことにして練習していた。
それでも5分以上はかかる、やっぱり難しい歌。
今までピアノや歌で舞台に立ってきたけど、リハーサルで歌ってみて、初めて出るのをやめたくなった。
歌ってる途中に引っ込みたくなったというか、最後まで持たないという気分になった。
何とか最後まで止まらずに歌うことはできたのだけど、不安で仕方なくてね。
ただ、ホールの状態がとてもよくて。
小さいところなのだけど、それだけかすかな音までちゃんと隅々まで聞こえる感じで。
大きな声を無理に出さなくても、とりあえずは聞こえるだろうという安心感は出た。
『ちゃんと聴こえるから心配しないで』 先生、それが精いっぱいだったんだろうなあ…ほんとごめんなさい。
前日の歌合せで一緒だった先輩にも、『昨日より調子いいみたいね』と言ってもらい、少し落ちついた。
今年はさらに、娘が初めて、発表会に出たのね。
普段私がピアノを教えてるから、今まで発表会の経験がなかったのだけど、先生のピアノの生徒さんに混じって弾かせていただけることになり、親としての緊張もあった。
いろんな意味でドキドキしながら、いよいよ本番を迎えた。

15人くらいの生徒さんがいて、前半がピアノ、後半が歌という構成だった。
娘はピアノの3番目。
リハーサルでもつっかえたりしたのだけど、落ちついてやり直し、2曲を弾いた。
私のピアノの生徒(1年生)とお母さんたちや、娘の同級生も見に来てくれて、娘、とてもいい経験になったと思う。
休憩を挟み、2部の最初が親子コーラス。
市民ミュージカルでも作曲していただいているスターク氏の歌を、4組の親子で歌った。
ミュージカルの2組のメンバーさんに協力してもらって、あったかいハーモニーになったと思う。
その後、声楽のプログラムが続き、いよいよ私の番。
やはり歌詞が最後まで不安で、でも練習の時は止まらずに出てくるのだからと自分に言い聞かせて、ドアから舞台に進んだ。
もう帰ってるだろうと思っていた生徒さんが残っていてくれてとてもびっくりしたのだけど、がんばらなければと励みになった。
家族の顔、友達の顔を見ながら、自分でも驚くほど落ちついて歌いだすことができた。
先生の注意が思い出され、表情をつけて歌えたように思う。
声の調子を、気力と表情でできるかぎりカバーし、最後まで歌い上げることができた。
終わった後の充実感は、これまでになかったように思う。
たぶん忘れることが出来ないステージになった。

後日。INTERMEZZOの掲示板に嬉しいコメントが書き込んであった。
ミュージカルの原作者さんであり、私の敬愛するI先生のパートナーでもあるMARKさん。
いつもあたかかいコメントで励ましてくださるのだけど、今回もそうだった。
これからもがんばらなきゃ。ありがとう。
ちなみにまだ風邪、完治してない(^^ゞ なんてしつこいんだろう…。