2005.3.24
ゆきちゃんの卒業
3年間教えてきたピアノの生徒ゆきちゃんの、今日は最後のレッスンだった。
4月から5年生になるゆきちゃんは、受験を考えてるのかな。
忙しくなるので、ここで区切りをつけたいということだった。
3月最初の発表会の少し前にその話を聞いてから、もちろん淋しくもあったのだけど、ゆきちゃんと過ごした3年間の思いが、とても懐かしく私に戻ってきた。

習い事って、たぶん、一生続けられることって少ないよね。
私は小学生の時、ピアノの他に習字と英会話をしていた。
習字はたぶん、うちの親の希望。
いい姿勢できれいな字を書けるように、ということだったろうと思う。
確かにいい姿勢は身についたし、字も上手ではないけど、長く書くことも苦にはならない。
英会話は自分でも興味があったし、毎週のレッスンをとても楽しみにしていたように思う。
中学に入ってからの英語も楽しみで、英語に対してマイナスイメージがなかったのはやっぱり習い事のせいだったかも。
習字も英会話も、ちょうど中学に進級する時に辞めたのは、たぶんいい区切りだったってことで、途中で挫折したという思いはなかった。
1年生から始めたピアノも、先生が変わりながらずっと続け、大学を卒業するまでレッスンに通ったことは、やっぱり私の大きな財産になってると思う。

ピアノって、レッスン以外に日々の練習があるんだよね。
続けて弾いていないと、どうしても上達はしない。
たくさんの習い事と並行するには、ちょっと難しいかなと思える習い事。
1年生に上がったと同時に、4つも5つも習い事を始め、週のほとんどが埋まってしまうという生徒も前にはいた。
学校の宿題もある、お友達とも遊びたい、習い事に追われて練習ができない…。
結局その子は、ピアノを辞めてしまった。
1年やそこらで辞めてしまっても、やっぱりものすごく上手にはならないんだよね。
もう少し続けられたら…と思ったけど、それはやはり家庭の選択だし。
今の子供って、何でもできる環境下にあるわけで、時間とお金が許せばなんでも習えるんだよね。
でも、どうしたって優先順位もあるし、本人の許容量もあるし。
お友達がやってるからやりたい、とか、ちょっとおもしろそうだからやりたい、なんていう、かなり安易な気持ちも、もちろんそこにはある。
親としては、子供がやりたいということはやらせてやりたいと思うのだろうし、可能性を生かしてあげて、その中から子供の才能を見つけてあげたい、というのもわかるんだけどね。
忙しくて途中でやめた習い事がある、というのは、その子にとって全くマイナスにならないのかなあ…?と思う。
とにかく始めてみてだめなら辞める、という考え方も確かに一理ある。
でも、始める前にほんとにやりたいのか、続けられるのか、親子でじっくり話し合ってみるというのも、必要じゃないかしら、と思う。
できることなら、一生続けられる趣味があるほうが望ましいと思うし、なにより、継続し続けるというのはとても必要なことだと思うもの。

ゆきちゃんのお母さんは、PTAの役員友達でね。
ピアノを弾きたいというゆきちゃんのために、お母さんがかなり考え、ピアノ教室だと入ってすぐに辞めるというわけにもいかないしということで、個人の先生である私に話を持ってこられたのね。
『続かないかもしれないから、1ヶ月でやめたらごめんね』
最初、そんな風に話を持ってこられ、正直かなり戸惑ったのだけど、ゆきちゃんがとてもまじめで。
ピアノの他に、水泳や塾にも通いつつ、それでも毎週、宿題をきちんとクリアしてくる。
始めてみたら1ヶ月なんてとんでもなく、ピアノをとても楽しんでいるというゆきちゃんは、私の自慢の生徒だった。
きっとゆきちゃんは、ピアノがとても好きなままで、卒業するのだと思う。
3年間弾き弾き続けて、いろんな曲を弾けるようになったし、譜読みがとても早くなったし。
今回の発表会で、初めてポップスにも挑戦し、好きな歌なんかも楽譜があれば弾けるようになったと思うし。
ゆきちゃんと過ごした3年間は、私にとっても宝物で。
新学期から、受験に向けてますます忙しくなるのかもしれないけど、ゆきちゃんならきっと大丈夫。
器用に何でもこなすタイプではないかもしれないけど、少しずつひたむきに黙々と努力するタイプのゆきちゃんは、一つ年上のうちの娘にとってもよきライバルだった。

ゆきちゃん、がんばってね。
これからも時々、ピアノと遊んであげてください。
先生はずっと、ゆきちゃんのこれからを見守っていけたらと思ってます。
楽しい思い出をどうもありがとう。

2005.7.26
2人のチャレンジ
PTNA(ピティナ)というコンクールを知ってる人、いるかなあ。
私も正式名称は知らなかったから、今、ちょっと調べてみた。

ピティナ(PTNA)とは、社団法人全日本ピアノ指導者協会(The Piano Teachers' NationalAssociation of Japan, Incorporated by the Japanese Government)の略称です。 だって。
指導者協会だったのか… なんて、そんなことはさておき。
ここに、ピアノコンペティションというコンクールがある。
A(1・2)級からG級、特級まで11クラスあり、それぞれに受験する年齢(学年)制限があるのね。
例えばB級なら小学4年以下になってるので、例えば幼稚園の子でも受けることは可能になる。
年齢に合わせて受けてもいいし、上手な子はうんと上のクラスを狙ってもいい。
それぞれ地区予選があり、合格すると地区本選、二次予選、全国本選という、狭き門になるのね。
コンペティションはちょっと自信がないとか、年齢より下のクラスを受けたいという人には、検定というシステムもあって。
こちらは本選に進めない代わりに、年齢制限がない。
毎年、課題曲が各級であってね。
バロック、古典の2ジャンルから1曲、ロマン、近現代の2ジャンルの中から1曲を選んで演奏するのね。
コンペティション受験者は近現代のみ、ロマンは選曲できないシステムになっている。

私は高校2年の時、長崎でF級(高校3年以下)を受けた。
コンペティションはどうかなということだったので、検定だけでもと先生に薦められてチャレンジした。
結果、検定優秀賞というのをいただいてしまい、たまたま地区に本選通過者がいなかったようで、よければ地区本選に行ってみないか、と審査員の先生方に言っていただき、九州大会に出場した。
結果は、まあ、オリンピックの精神で参加したことに意義があったわけだけど(*^_^*)
でも本当に、いい経験になったと思う。

ピアノ指導を自宅で始めて数年になるけど、今まで、コンクールなどとは無縁でいた。
自分の娘も含めて、『楽しんでピアノを弾けるようになってくれたらいいな』という意識でいたのね。
私自身は音大卒ではあるけれど、音楽が一生の趣味であればいいな、という考え方も持っているし。
今年4年目を迎える3年生のはるちゃんが、ほんとにピアノが好きな子でね。
他のお友達が習い事や塾、本人の都合などでピアノを辞めていっても、はるちゃんは毎週がんばってレッスンを続けてきて。
確かに、飲み込みも早いし、とても勘がいいところがあり、宿題はきちんと仕上げてくるのね。
『はるちゃんピアニストになるの!』なんて、レッスンに来るたびに言ったりして、可愛いなーと自慢にしていたんだけど。
でも今年になってすぐ、はるちゃんママと話をしていて、付属中学の受験は?なんて単語が出てきて。
はるちゃんのピアノ好きに、お家でもちょっと真剣に音楽志望を考えているようだとわかり。
これは私も、本腰入れないといけないな…と思った。
私の声楽の師匠、ご自宅でピアノ教室も開いている、歌もピアノもすごいI先生に相談してみた。
先生も毎年のように、生徒さんのステップアップのためにPTNAを受けさせてるということで、いきなり受験を目指す前に、少しでもコンクールなどの経験はしておいたほうがいいかも、とのことだった。
はるちゃんママにも考えてもらって、うちの娘とも相談して、今年ははるちゃんとうちの娘2人で、検定にチャレンジしてみることになった。

課題曲発表が3月初め。
YAMAHA店に、コンクールの要綱が売っていて、さっそくそれを入手。
今までの勉強レベルを考え、3年生のはるちゃんは2年生までのA1級、6年生の娘は4年生までのB級と
年齢より下の級をを選択した。
課題曲も、それぞれ、私が弾いたことがあるよく知っている曲が入っていたのでそれを選択、あと1曲は楽譜
をじっくり見て、2人に合いそうな曲を選んだ。
ちょうど立川は、前期(6月初め)、後期(7月終わり)と2回あって。
いきなりの挑戦だったし、後期の7月終わりに向けて、練習してもらうことになった。
時間がゆっくりあったので、他の曲も練習しながら、課題曲に取り組み、2人ともかなり、レベルアップしたように思う。
今までは、こんな感じで弾けてたら大丈夫かなと、私もはるちゃんには楽しくレッスンしていたのだけど、やっぱりコンクールに向けてとなると気合が入ってしまって。
細かいところまでいろいろチェックをしたり、少し厳しくなっていたとは思うのだけど、苦労しながらしっかりついてきてくれた。
娘にはどうしても親の顔になり、厳しいこともポンポン言いながら教えてきたのだけど、ピアノが弾けるようになってきたのが嬉しいようで、自分からピアノに向かうようにもなってきた。

6月の前期予選の時、予行の意味をこめて、娘と予選を見に行ったのね。
はるちゃんとママも行く予定だったのだけど、ちょうどはるちゃんが熱を出してしまい、残念ながら見に行くことができなかった。
それまで、発表会しか経験したことのない娘、コンクールという一種独特の雰囲気に圧倒され、たくさんの上手な子たちを見て、かなりいろいろ考えたようだった。
小さいながら、ピアノに向かったらすっかり大人の顔をして演奏する、自分より小さい子供たちがたくさんいるのに驚いたようで、これがコンクールなのだ、と改めて思ったようだ。
7月に入り、緊張もあるのか、ミスタッチが目立つようになったり、細かい音符が上手に弾けなかったり、不安になりつつ、本番ではるちゃんのサポートで足台をセットするはるちゃんママも一緒にリハーサルを繰り返してもらったりして、いよいよ、本番の日を迎えた。

A2・A1級が10:00スタート、娘のB級が12:50スタートだったのだけど、娘、はるちゃんの演奏も応援したいと言うので、娘を連れて朝から会場のホールに向かった。
確かに、当日の朝、あんまり弾きすぎても疲れてしまったり、またミスが続くとかえって萎縮するんじゃないかということもあり、10分くらい最後の調整をしただけだったので、それはかえってよかったかもしれない。
会場には、3年生までの小さなピアニストたちが、しっかりドレスやタキシードに身を包んで待っていた。
はるちゃんもドレスだったけど、すごく緊張していた。
演奏は抽選で決まるということになっていて、コンペティションの前に検定の審査がされるとI先生に聞いていたので、順番は早いほうだろうと話していたのだけど、はるちゃん、A1級の1番で。
その番号だけで上がってしまった、と、ちょっと硬い表情をしていた。
ただ、A2級(幼稚園児)から続けてだったので、前に何人か子供たちがいたので、それをみていて少し落ちついたみたい。
本番では、おじぎもきれいにでき、心配したミスタッチもなく、とてもいい演奏ができ、客席から娘と2人で大きな拍手を送った。
終わった後、やっと笑顔になったはるちゃんをたくさんほめてあげて、パパやママにも『すごく上手にできましたね』と話した。
会場近くで軽く食事を取り、いよいよ、今度は娘の出番。
娘も受付をしてみたら、2番目。
でも、まるっきり同じ曲を弾く子が娘の後の順番で、それだけはよかったね、と話した。
すぐ前に同じ曲を弾かれると、妙にあがったり、影響されたりしてしまいがちなんだよね。
大きなホールでピアノを弾くのは初めての娘、袖のところでも緊張しながら待っていた。
前日まで、細かいフレーズが上手にできなくて、止まって弾きなおしたりしてたのね。
袖の中で、『間違っても大丈夫だからね、止まってもわかるところから弾けばいいから。間違っても怒ったりしないから楽しんで弾いてらっしゃい』と娘の手を握っていた。
そして、本番。
袖の中で見守っていたけど、落ちついて弾いてくれた。
心配した1曲目も一度も止まることなく、2曲目ではテンポよく気持ちよく弾いていたようだ。
袖に戻ってくる娘、緊張が解けたらしくやっと笑顔になって。
『上手に弾けたよー。止まらなかったよー。よかったー』と、私の手を握りしめ、興奮してささやいた。
私も通路を歩きながら、小さい声で『よかったね。ほんとに上手に弾けたね。』と言い続けていた。
はるちゃんもママと一緒に、会場で演奏を聴いていてくれた。

B級の審査の時、ちょうどA1・2級の掲示発表があって。
なんとはるちゃん、検定優秀賞を取っていた。
これは、検定なのだけど予選通過と同じくらいのレベルという評価らしい。
娘と2人で、心から喜んだ。
娘の発表は、夜18:00過ぎだったので、いったん帰宅し、それから2人でミュージカルの稽古に出て。
夜、改めて、発表を見に行ってみた。
娘は残念ながら、検定優秀賞は取れなかったけど、ちゃんとB級合格はしていた。
審査の先生方の講評もいただき、右左のバランスを気をつけて、とか、もう少しやわらかく演奏してみて、とか
とても的確なコメントが書かれていた。
そんなに悪い点数ではなかったし、とにかく合格したんだもんね。
娘、来年は次の級でがんばる、と、とても頼もしいことを言っていた。
はるちゃんママとはメールでやり取りした。
はるちゃんもこれをいいステップに、また次回をがんばるとのことだった。
うん、ほんとに2人ともがんばったね。
生徒たちはとても元気だったけど、私、朝からやっぱり緊張していたのか、夜になって疲れがどっと出てしまって早々と寝てしまった。